いけふくろうの会

 

 

 

杉本:その話はあとで笑わしてくれたらありがたいんですけど。その出家の話も大きなテーマなんですけどね。あと「いけふくろうの会」ですよね。

 

勝山:「いけふくろうの会」ね。

 

杉本:これは何年くらいされてるんですか?

 

勝山:何年くらいだろう? もう5年くらいしてるんじゃないですかねえ。

 

杉本:そうそう、肝心のパートナーの。

 

勝山:伊藤さん?

 

杉本:伊藤書佳さん。

 

勝山:伊藤さんと秋田匠くんがやってるんですよ。この二人が、幹事というか、世話人なんです。私は参加者なんですよ。

 

杉本:あ、勝山さんは参加者で?

 

勝山:そうなんです。で、この二人が「二次会からスタートしよう」というコンセプトで始めたんですね。

 

杉本:うん。二次会からね。

 

勝山:どうせ飲み会になるんだから、という。

 

杉本:それで一次会抜き、という。

 

勝山:会議室みたいなところでテーマにそって話すというのをどかしちゃって、二次会からはじめようというコンセプトではじめたのが「いけふくろうの会」ですね。

 

杉本:なるほど。やはり水があうのはそちらですかね? 勝山さん的には。

 

勝山:基本、一次会は二次会のためのもの。ただし、お金がかかる。居酒屋に行くからね。この欠点は本当に大きくてね。

 

杉本:毎月ですもんね?

 

勝山:毎月二~三千円とかいうのは、お金のない人にとっては二万円か三万円くらいのダメージがありますから。

 

杉本:ええ、年間ではね。

 

勝山:1回1回がですよ。

 

杉本:ああ~。そうか・・・。

 

勝山:ゼロひとつ違いますから、金銭感覚が。お金のないときは自動販売機のつり銭受けに指を突っ込んでいた人間としてね。

 

杉本:あ、あれ事実の話だったんだ。

 

勝山:事実ですよ(笑)。

 

杉本:そうすると勝山さんも最初は経済面では敷居が高い部分があったと?

 

勝山:昔は「養老の瀧」にしか行かなかった。養老の瀧は夕方5時から6時まではサワーが1杯100円ということで。6時まで目一杯飲んで、あとは余韻を楽しむ。

 

杉本:余韻をね。

 

勝山:酔っておいて、あとはコーン・バターをひとつぶひとつぶ食べるんですよ(笑)。

 

杉本:喋りながら。

 

勝山:それで、千円以内に抑えるという飲み方しか知らなかったんで。当然、まあ私以外の人もそうであろうと。

 

杉本:うん。

 

勝山:それを思うと、いまのいけふくろうの場合は贅沢も過ぎると思いますね。

 

杉本:そうですか。

 

勝山:二~三千円払うわけですからね。とんでもないブルジョアです。

 

杉本:うん。いや~、自分を省みるとずいぶんぜいたくに生きているなと思いますね。う~ん、なるほどね。

 

勝山:ああいう、お互いが対等というか、上も下もなくね。しかも陰気なこともなく、ただ飲んでおもしろく過ごそう、というのがいいと思いますよ。まあ、目的がないほうがいいね。

 

杉本:この前話を聞いた、インターネットのオフ会の流れとおんなじ感覚で?

 

勝山:そうですね。私は、鶴見済(わたる)さんの大ファンで。『人格改造マニュアル』という本が大好きで、すごく読んでたんですよ。そして丁度その頃に、ウインドウズ98が出て、パソコンが我が家に来たんです。私が買ったもらったわけではなくて、一家に一台パソコンが登場した。私がインターネットに初めて接した頃、鶴見済ファンのホームページがあって、掲示板があり、チャットがありという、まあ古いインターネットコミュニティです。そこに書き込んだり、チャットで話をしたりということをしてて、その流れでオフ会をやろうということで、初めての「交流」というかね、自分と同じ趣味を持った人、自分とおんなじセンスを持った人と会って初めて話をする体験をした。それだと初対面でも会話が弾むんです。

 

杉本:うん。前提を抜きにしてね。

 

勝山:読書会みたいなものですよ。横浜の読書会で杉本さんが体験したようなことを僕はオフ会で感じたわけですね。

 

杉本:そうそう。嬉しかったぁ。う~ん。それは自分が体験した意味でも非常によく分かる。

 

勝山:まったく同じ気分になりましたね。

 

杉本:もう何年かぶりですね。あんな感激はね。

 

勝山:だから杉本さんの話を聞いてて思い出したのはこの鶴見済ファンののオフ会に出たときのことですね。自分もそうだったな、と思ってね。

 

 

 

一歩前に出て、声を張って、言い切るしかない

 

 

 

杉本:なるほどね。それでね、勝山さんも最初に話聞いたときに言ってたけど、そういう印象を大事にしたいから、あまり物事の決着をつけるようなものを居場所の中に持ち込んできたりとか、白黒はっきりするようなことは基本的にやらないで、ゆるく和やかにやりたいということなんですよね?

 

勝山:いや、そんなことはなくて。

 

杉本:そんなこともない?

 

勝山:白黒つけないとか、そういう気を使ったことはあんまりないですね。

 

杉本:そうですか。まあそれは例のね。法案がらみの話からいろいろ飛躍して僕が自分のところもね、みたいな話の中で「グレーゾーンがいいんですよ」みたいな話になったから。「ああそうか。大人なんだなぁ」と思って。そのとき。でもまあ、そうはいっても、言うべきことは言ってると。

 

勝山:うん。遠慮してないですね。なにせ歪んだ正義感がありますからね。

 

杉本:またそんな(笑)。歪んだなんて。そんなことはないでしょう。

 

勝山:いやぁ~。歪んでますよ。

 

杉本:う~ん。そんな話を聞くと。何か世の中のほうが歪んで・・・。だから素直な人が「歪んだ」って自分で思わざるを得ないような。

 

勝山:そういうことですね。

 

杉本:まあ、僕も自分を「ひねくれ者」とか自称しますけど。実際ひねくれてると思うし。でも根が素直な人ってひねくれざるを得なくなっちゃうのかなあと。世の中を見るときに。

 

勝山:内田良子さんが言っていた話で、不登校の人に共通する性格というものがある、それは「納得できないことはやらない」というところ。偉い人とか、社会的地位のある人に何を言われても自分が納得できないことはしないと。納得したことはとことんやるというのが不登校の子どもに共通する性格だと。素晴らしい。でもそういう子が不登校になる。全然納得できないことでも、しょうがないと言ってやるような人が世の中やっていける、って。

 

杉本:うん。そこら辺がけっこう濃淡があってね。結局ひきこもっている人の中には、納得できないことをやれない自分がダメだ、という風に行くこと多いじゃないですか。

 

勝山:うん、その通り。

 

杉本:で、中途半端に嫌々ながらやっているという人もいますよね。「ちょっとつらいけど・・・」みたいな。

 

勝山:そっち方面に追いやるための就労支援でもありますからね。

 

杉本:うん。だから僕が知ってるレールに乗らない頭のいい子なんかは、自費本出したときに「杉本さん、これはひきこもりから一応エネルギー復活した人と、これからひきこもろうと考える人への理論武装になる本ですね」と言われて。

 

勝山:ほう。

 

杉本:(笑)「うまいことをいうな、君は」って。

 

勝山:あはは(笑)。

 

杉本:嬉しくなっちゃうんです。僕はそういう話を聞くと。それでね。これはいま勝山さん、どう考えているか知らないですけど、『安心ひきこもりライフ』のあとがきのほうですけどね。「大丈夫くん」と「現実くん」の両方が住んでるとかね。すごく「そうそう、そうだよな」と思うところであって。完全に僕なんかそうだけど、物凄いアバウトな気楽さというか。もう「やったあ」といって帰ってきて(笑)。丸出だめ夫くんみたいなことをやっちゃう。そのくせああいう読書会の場に行くと「社会がうんたら」とか、「社会保障制度が」とか、小生意気なことを言って(苦笑)。

 

勝山:大事なことですよ。

 

杉本:もちろん大切なこと。それでもねえ。結構その、「無意味な楽観主義」と「現実主義」が両方自分の中で交錯してて。だから時どき「現実くん」がね。僕も調子に乗ると喋るわけですよ。社会が何とかかんとかと言ってね。そうすると「おいおいおい」って。「お前ごときが」って。やっぱり「現実くん」がね(笑)。

 

勝山:(笑)言うんですね。

 

杉本:言うのよね。自分の中の。

 

勝山:うん。それも大事なことですよ。

 

杉本:大事なことだけどすっぱり割り切れない。こう、社会でもあり、個人でもあり、うんぬんかんぬん。右でもあるし、左でもある。「ぐにょぐにょ」とする。どこへ行ってもそんな調子になるんですよ。ひきこもりのことで語りだすとね。友人なんかはその傾向よく知ってるから「またはじめたな」と。俺の話途中で聞くのやめてるな、って(笑)そういうほかの目線も入ってきて。すぐにぐしゃぐしゃになるという。

 

勝山:うん。わかりますね。

 

杉本:やはりそこらへんは勝山さんはね。一端、言い切っちゃうという。これは物がわかっている人も感心する部分だと思うんですけれども。

 

勝山:仕方ないんですよ。やはりねえ。ごちょごちょ言っていたら、聞いてる人は寝ちゃうしねえ。

 

杉本:(苦笑)。

 

勝山:全然聞かなくなっちゃうから(笑)。「一歩前に出て、声を張って、言い切るしかない」んですよ。

 

杉本:そこなんだなあ。

 

勝山:思っていることハッキリ言う。それしかないんですよ。そりゃ、周りがすごい理解してくれる人で、自分の話を聞いてくれるときは、前に出て言い切る必要はないわけですよね。

 

杉本:だから勝山さんのすごさはそれだよね。分かってくれそうにない人たちの所にも行って、言っちゃう、というあたりのすごさ。

 

勝山:私は警察関係者、百人の前に行って。

 

杉本:(笑)そうそう。いまそれ、僕も連想して(笑)。

 

勝山:全員が聞いてないところで「話し逃げ」してきましたからね。

 

杉本:すっごいな。そこもよく呼んだねえ。

 

勝山:「非行少年枠」での出演ですからね。

 

杉本:非行少年枠って(笑)。それは笑っていいのか、笑っちゃいけないのか・・・。苦しいところだよな。う~ん、本当にそうだよね。どう受けとめたのかね? 感想文とか読んでみたいっすよね。

 

勝山:感想なんかないですよ。動員されて座ってるだけだもん。

 

杉本:ははははは。

 

勝山:チラチラ時計見ながらつまらなそうに百人座ってるわけですよ。

 

杉本:へへへへ(笑)。いや、笑っちゃいけない。どうなんだ? 笑っていいんでしょうか?これ(笑)。

 

勝山:終ったあとに質疑応答があるんです。誰も手なんて挙げない。

 

杉本:ははは(笑)。でも、質疑応答って手を挙げないよね? たいがい。

 

勝山:でも普通ひとりくらいは手を挙げるじゃないですか。

 

杉本:まあねえ。

 

勝山:だれも手を挙げないですね。逃げるように帰ってきました。

 

杉本:(笑)いや、でもえらい。すごいわ。もう正直、漂流教室さんのイベントでその話が出たときは爆笑しましたけどね、俺も。「すごい。これはすごい」って。

 

勝山:もう行きたくないですね。

 

杉本:よく呼びましたね、向こうも。

 

勝山:安かったからじゃないの?

 

杉本:講演者として?

 

勝山:うん。それでも5万円くらい出ましたからね。

 

杉本:でも(笑)。警察官も知らないだろうなあ、勝山さんのこと。

 

勝山:知らないですよ(笑)。お互いに不幸です。

 

杉本:(笑)知ってたら。すでに警官やめたくなってる人だよね(笑)。

 

勝山:うん。

 

杉本:そうかあ。でも、一歩前に出ずにはおれないか・・・。うん。まあ、職業柄というか、アイデンティティみたいになっちゃったら、もうそうならざるを得ないですわね。どんな場所に行っても。

 

勝山:え?

 

杉本:いやほら、ひきこもり話をするわけでしょ? 結局のところは。自分の体験しか言いようがないから。

 

勝山:そうですね。

 

杉本:うん。そうするとどんな場所行ってもそれでやっていくというのはほら、「道が定まったり」みたいな感じじゃないですか?

 

勝山:ええ。

 

杉本:うん。それは勇気いるなあと思って。いつか隠してやろう、という気もどこかにある身としては(笑)。

 

勝山:(笑)王者なのに。

 

杉本:いやあ。ほら。過去にこんな人がいましたみたいな。かつてサブカルの女王だった人がいま普通の主婦になっていました、みたいな。そんな風に逃げたいなあという気持ちがどっかあるところがね。それは名人的にはちょっと説教のひとつもしたいところでしょうね?

 

勝山:いや、そんなことはないですけど。杉本さんには「無理」ですよね。たぶんこの銀河系みたいな、ひきこもり銀河の中心にずっといると思いますよ。そういう意味では、自覚症状ないんですね(笑)。

 

杉本:そうなんですね。何となくものの分かる人が言うこともそんなことがあるような気がするんですよ。

 

勝山:そうですね。

 

杉本:やはりそういうことだったのかなあ?

 

勝山:まあ、言わんとすることは一緒でしょうね。

 

杉本:屈託があるわけよ。見えちゃうのね。バレちゃうというかさ。うん。なんか二股かけてるんだ、みたいな(笑)。

 

勝山:こっちから見ると二股なんてかかってない。本人だけが二股をかけてるつもりなんです。そこをどうやったら気づいてもらえるのかな? というところですかね。

 

杉本:いやあ、だから僕の母親もボケはじめてるんだけどボケてることを認めたがらないから。何か人の業としてそういう所があるのかなあ、って気がしますわ。何か責任逃げるみたいでアレですけどねえ。でもまあ本出しちゃったからちょっと逃げようがなくなったというところはあるのかな。

 

 

 

(後編に続く)

 

 

 

※丸山康彦さんー不登校のため7年かけて高校を卒業。大学卒業後、高校講師、ひきこもりりを経て個人事務所を開設し、青少年支援の研修と活動ののち2001年に相談機関「ヒューマン・スタジオ」を設立。業務のひとつとして2年目から執筆しているメールマガジンの内容をベースにした相談と家族会などを通じ、不登校・ひきこもり等への多様な援助を実践している。現在「湘南ユースファクトリー」代表理事もつとめる。著書に『不登校・ひきこもりが終わるとき』(ライフサポート社)がある。 (ひきこもりUX会議HPより)

 

※林恭子さんー高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験。信頼できる精神科医や「ひきこもりについて考える会」での多様な人々との出会いを経て回復。仕事や結婚を経験し、現在は同じくひきこもり経験者である夫と古書店を経営しながら、横浜・神奈川で仲間と不登校・ひきこもりの支援活動をしている。(ひきこもりUX会議HPより)

 

※近藤健さんー家庭教師の仕事をしながら、横浜でひきこもり自助会「STEP」代表、湘南ユースファクトリーの副代表理事を務める。

 

※「ひきこもりカレンダー」-勝山実著。文春ネスコ 2001年

 

※UX会議ーひきこもりUX会議。当事者8人が現在の「引きこもり支援」のあり方に対して、実用的な提案を行うというコンセプトで成立。UXとは、ユーザー・エクスペリエンス(利用者体験)の略。各種イベントなどで当事者主体発信を行う。

 

※湘南ユースファクトリーー不登校ひきこもりへの一般的な「復帰支援」ではなく、「生きる端の支援」の旗を立て、その現状からの多様な生き方を追求する団体。不登校ひきこもり専門サイト「ひき☆スタ」への協力、フリースペースとの協働、イベントなどを行っている。

 

※ロフトプラスワンー新宿にあるトークライブハウスでエンターティンメントから政治までさまざまなトークライブが開かれる。サブカルチャーの殿堂。勝山実さんや「だめ連」などのトークライブなど伝説多数。

 

※宗教仕込みー「ひきこもる心のケア」序章参考。

 

※伊藤書佳さんーフリーの編集者。著書に『超ウルトラ原発子ども』(ジャパンマシニスト)がある。

 

初版1989年。2011年、第五刷発行

 

 

 

←ホームへ