自己反省という「やけど」

 

 

 

杉本:いや、ちょっと俺、自分のことばっか話しちゃって良くないすよ。

 

勝山:そんなことないんじゃないですか。

 

杉本:いや、インタビューは勝山さんなんで(笑)。僕へのインタビューじゃない(笑)。

 

勝山:もうだいぶ話しましたね。

 

杉本:まあ、本当に。でもねえ。こうやって丸山さんにしても勝山さんにしても改めて自分のミスを受けとめてくれるっていうのはやっぱり嬉しいなあ。人さまのありがたみというのを感じますねえ。だけど王者と言われてどう捉えたらいいか。あまりそういわれても自分の心のメダルは光らないけれども(苦笑)。

 

勝山:もうメダリストですからね。これからは「王者」を名乗って欲しいですね。

 

杉本:「王者」ねえ。あ、思い出した。僕、学生時代の付き合いで面白い先輩がいたんだけど、その人「杉本君はきっとものすごい美人と結婚するか、全然できないか。どっちかしかないな」。そんな極端なキャラだな、みたいなこと言われたのを急に思い出しちゃった。

 

勝山:見抜かれていたんですねえ。

 

杉本:いや、正直ね。いろいろと防衛が弱いというか。バレバレなところがあるなというのは自分でも気づいてはいるんですよ。うん。それだからちょっとひきこもったというのもあるんですよね。

 

勝山:なるほどね。

 

杉本:何かちょっと上手く大人の立ち居振る舞いが出来ないというかね。うん。何しろこっちはおっちょこちょいなんで。何やるにしても。

 

勝山:おっちょこちょいのスケールもでかいですからねえ(笑)。

 

杉本:本当に仰る通りでね。大きな子どもというのか、いい年した子どもというか。うん。これじゃあ社会参加難しいよなあ。

 

勝山:まだ社会参加する気があるというのが驚きですよ。

 

杉本:驚きですよ、って(笑)。勝山さんだってしてるじゃないですか(笑)。

 

勝山:私はしてないですよ(笑)。

 

杉本:してますよ、ちゃんと(笑)。勝山実といったら知らない人はそういないですから。

 

勝山:せまい枠の中ですけどね。

 

杉本:やっぱり知らなかったら「最近ひきこもりに関心もたれた方ですか?」となっちゃうんでね。

 

勝山:そういうことですね。もぐりですね。

 

杉本:いやだから、妙な話ですけど、勝山さん以外いなくなっちゃったというのがちょっと残念ですよね。

 

勝山:みなさん、増長したんじゃないですか?

 

杉本:う~ん、増長したのか・・・。

 

勝山:自分も消えてましたからね。一回。まあ奇跡的に戻って来れましたけどね。

 

杉本:じゃあ僕と同じで、ちょっと自己反省の域に?

 

勝山:自己反省。だからすごい反省してますよ。

 

杉本:ああ~。それは嬉しいなあ。

 

勝山:他人にアドバイスするようになってましたからね。偉そうにね。説法どころじゃない。ああ、説法レベルかな。

 

杉本:あはははは(笑)。

 

勝山:説法レベルを、本出したあとしばらく続けてました。

 

杉本:あの~、「君も本を出せるよ」という説法ですか?

 

勝山:そうそう。「挑戦してみなよ」「自分であきらめちゃダメだ」みたいなことを言って。嫌われて。

 

杉本:あ、一歩踏み込んだことも。

 

勝山:ええ。本当にね。嫌がられて。誰もいなくなったんですね。あれはひどかった。あれでもう全てを失ってしまったという。

 

杉本:だからかつて自分が反省しなくちゃいけないって大きなものを抱えて。で、何年もそのまま外に出ませんでしたというあたり。この判断は難しいですね。片方じゃそんなことで外に出てこなくなるのはおかしいと言われるし、反対にその反省力が評価されてね。そこまで思いつめるなんて何て心が純粋なんだろうと。二つに分かれてしまう。で、後者のほうが圧倒的に少ないですね。やはり生産効率的な時代になっちゃうと。でもそれはいまも昔も同じですかねえ。あんまり過去にこだわったらいかんぞ、みたいな考えは。

 

勝山:でも、こだわらざるを得ないですね。こだわらないと。誰からも相手にされないわけですからね。

 

杉本:ああ、そうだったんですかぁ。

 

勝山:幹部の時にやりすぎたんですよね?

 

杉本:そうですね。

 

勝山:おんなじですよ。ほぼ同じだと思いますよ。本を出すということがほぼ幹部級のことです。

 

杉本:ああ、はいはい。わかります。だってちゃんと売れてるんだし。1万部といったら相当のね。

 

勝山:相当なんですよ。

 

杉本:うん。

 

勝山:だから今回はね。謙虚にしようと気をつけてます。

 

杉本:だからいい意味でやけどするというのも大変なことなんだろうな、と。

 

勝山:でも焼け死んでしまうとね(笑)。ほとんどの人が焼け死んでると思います。

 

杉本:難しいところですよね。何でもこう、「自分らしく」ものを言えばいい、というものでもなくて。

 

勝山:結局、表現の場がブログだけになりますからね。それでいいんだったらいいですけどね。

 

杉本:僕もそうなんだけど、こうやって「出さないか」といわれたときにやっぱり「いやぁ~」とかって退いていかないのね。正直チャンスと思っているところがあるわけですよ。やっぱり知られて欲しいというのはあるわけで。きれいごととしては。いや、きれいごとじゃないんだけども(笑)。けれど、同時に心の中でこれチャンスだぜとか。自分の名前を売りたいというわけでもなくて、仕事としてね。

 

勝山:わかりますね。

 

杉本:何かこう、ちょっとした名刺代わりになるかもしれない、とか。

 

勝山:名刺にはなりますよ。

 

杉本:えげつない心理ってやっぱり働いてるんですよね。

 

勝山:本を読む人なら当然ですよ。

 

杉本:ああ、そっか~。

 

勝山:本読まない人にはそれが分からんのですけど、本を読んでる人にはやっぱ自分の本が出て本屋に並ぶというのはそれは特別な体験であって、もうお金とか関係ないですよね

 

杉本:そうですよね。だからもう一段、欲望が出ると感想が聞きたいになってくるわけです。でもそんなすぐには感想なんか返ってこないじゃないですか?

 

勝山:返ってこないですね。

 

杉本:本はね。やっぱり音楽なんかやっていればその場でのリアクションがあるからいい。本は感想がかえってこない分、どうなってるんだろう、と。だから自費出版本は反応なかったから。買ってくれた人は沢山いてくれてありがたかったけど、「どうなのかなあ?」と思っていたのだけど。今回はそういう意味では漂流教室の相馬さんが声をかけてくれたり。今度石狩の不登校の親の会でも読書会を開いてくれるんですけど、直近で一番嬉しかったのは横浜の読書会でしたね。

 

勝山:おお。

 

杉本:「思った部分を語ってくれてる」みたいな。ちょっと夢心地。あの時間帯は正直夢心地でした。で、「こういうことでいま悩んでいる人に読んでもらいたい」という人たちが上手い具合にみんな集まって来られて、それぞれにみんな自分の言葉を持っていて。それを語ってくれて。で、横に近藤さんみたいな人がいて。ちょっと監修の村澤さんが思っているようなことに近いことを語っているのを見ると、やっぱりリアリティという意味では全然違うんですよね。何か全然、空砲を撃ってる感じがしない。

 

勝山:そうですねえ。

 

杉本:実弾がちゃんと当たってるというのはすごいインパクトで。で、やっぱり増長して割と早い段階で「しまった!」調子に乗りすぎた俺がいた、と気付きましたねえ。絶対あれは舞い上がっていたんだと思います。それは嬉しかったんだな。そういう意味でも本当に読書会に呼んでくれて嬉しかったなあ。

 

勝山:読書会も話が深まりましたからね。本当に良かったです。

 

杉本:というか、ほぼ割合、答えは出つつあるというか、まあここからは言葉が淀むんですけど、次の判断というか。じゃあ次はどうしますか?という所にだんだん近づいてきてるのかなあという気もしないではない。でもこれはね。こちら側だけが変われという話ではなくて、世の中も変わってくれないともう、どうしようもないな、という。

 

勝山:本当ですね。

 

杉本:そこへだんだん行きつつあるな、という。

 

勝山:「社会の問題」という視点ですよね。

 

杉本:キビシイですよねえ。うん。

 

 

 

そろそろ変わるとき

 

 

 

勝山:「個人の問題」という視点だけで、10年以上やってるわけですからね。訓練で個人を鍛えても成果は全然出てなくて、それでもまだ続けようとしている。支援者の声ばかりがでかくなる。まあ、ブラック支援みたいなのばかり、と。もうそろそろ変わるときじゃないかな。ひきこもっている人だけが苦しんでるわけでもないからねえ?

 

杉本:そうですよね。本当に。

 

勝山:学校に行っている人も苦しんでるし、働いている人も苦しんでるし、紙一重で踏ん張っている人がいっぱいいて、もうひきこもっている人だけの問題じゃないというところにきている。そういうところの話がこの本のテーマでもあるし。

 

杉本:そうそう。で、ひとつ面白いなあというか。こういう形もアリかなと思ったのが表から反旗を翻すようにアピールするんじゃなくてね。いまの経済活動とか、政治とかということはもちろんあって、ダイレクトに批判すべき要素は山ほどあるんだけど。若い近藤さんの考えかたとかね。欲望というけれど、それは他人の欲望を自分の欲望にしているだけじゃないですか、みたいに考える若者がいるということ。そういう視点鋭いな、というかね。それが全面対決型じゃなく、別の生活意識で自然に欲望がフェイドアウトしていけば、いくら国が大騒ぎしてもどうしようもない。まあ、いまの高齢者の人がみんないなくなってくれないと難しいという所もあるんだけど。

 

勝山:ははは(笑)。

 

杉本:まだ時間がかかる話ですけど。若い人は結構やっぱりそういう変化を。そういう変化を早く見たいって言ってましたもんね。そんな時代が来ることをね。その「先を見たい」という発言は印象に残りました。そこまでいまの若い人は考えてるんだと思ってね。いままでは世代的にどちらかといえば家族問題みたいな。最初に家族間葛藤みたいなのがあり。まあ俺の場合は親父なり兄貴との関係だけど。何となく家の中がギクシャクしていたりとか、暗かったりしたというところ。世代的にみんなその問題でひきこもったという経緯がしょっぱなにあるんだけど、いまの若い人ってそういう問題でもなさそうですもんね。

 

勝山:いや、ありますよ。

 

杉本:ありますかね? 家族の葛藤。

 

勝山:それはアリアリですよ。ただそれをメインに話すのが恥ずかしいっていう。でも、家族問題がある人がみんな、ひきこもりになったり、ニートになったりするわけじゃないから、それを殊更にとりあげて話す必要もないということなんじゃないかな、って私は思ってますけどね。

 

杉本:ああ、なるほどね。

 

勝山:自分がそれが第一の原因だと思っていれば話すけれども、そういう理由からじゃないと思ってるからじゃないですかね。

 

杉本:なるほど。おそらく原因の複合性が強まってるんでしょうね。

 

勝山:そういうこと。

 

杉本:俺らの頃は景気が良かったから。働ける状況なのに何で働かないの? みたいなことがすごく刺さってくる世代だけど、いまの若い人たちは「だって働ける場所がないじゃないですか」と。

 

勝山:そういうことを堂々といえるわけですね。

 

杉本:説得力が本当にあるから。周りの大人の人たちも「まあ、そうだよな」と。どこかでそうなりやすいところはありますよね。そこを精神力で、「いや頑張って何とかやりゃあ何とかなって」みたいなことをいうのはちょっと流石に上から目線だろう、という。

 

勝山:お前の時代が良かっただけだろうということを言われたら返す言葉がないじゃないですか? 私たちの若かった頃はそう言われたらもう黙るしかなかったけれど。そういうところで表現の幅が広がってるんでしょうね。自分の考えの幅も広いし、全部自分の個人の問題だって思わなくても、というのもありつつ、違う要素も、というのが自然と考えられるようになってるんじゃないですかね。

 

杉本:それってすごくいいことじゃないか、って思うんですけどね。あっという間に煮詰まる、っていうのではなくてね。煮詰まるは煮詰まるんだろうけど、可能性っていろんな要素で考えられるところがあるからね。もうね、親との全面対決だけで煮詰まらざるを得ないとなったら、家庭内暴力に行くか行かないかみたいな切羽詰り方だったじゃないですか。まあ、俺の家にも壁に穴がありますけどね(苦笑)。

 

勝山:ありますね(笑)。

 

杉本:俺の家にもある「切ないメモリー」の痕跡だけど、それがあるかないかというのは結構大きかったかもしれませんが、いまはあったところで何なの? みたいな感じかもしれない。そこら辺が可能性かなあ? いまの若いひきこもりの人の。まあでも、勝山さん的にはそのようにウイングが広がったとしても主流に入りますか?と言われたってみんな入れないだろうという。

 

勝山:ん? ウイング? 何?

 

杉本:言葉が足りなかったですね。あの、やっぱり時代が困難だから、いろんな若者支援とかちゃんと広げて就職の窓口もちゃんと広げればひきこもっている人も社会に復帰できるんじゃないか、と言っても。おそらく戻らんだろうな、という。

 

勝山:それは罠ですよ。その戻る社会はどうなんだ? というところを問うべきなんですよ。それがそんないい社会なのか。

 

杉本:全然よくないな。目に見えてよくない。

 

勝山:社会の質。質を問うというのが欠けているんですよね。

 

杉本:うんうん。本当にそう。

 

勝山:雇用が増えました、よかったね、でも雇用の質はどうなんだ? 昔の労働環境といまの労働環境。私は働いたことないけれども(笑)。

 

杉本:いやいや、そんなことはない。あの~、いま3年で大卒者辞めるでしょう? 近藤さんなどが冗談交じりで言ったとおり、3年で辞めたらみんなで拍手して迎えてあげる。君も3年、よかったね、みたいな。そういうことがあるから、いま景気がよくて入職できたとしても、あまりにも冷たい職場に耐えて耐えてようやっと3年で辞めちゃうみたいな。この循環だと結局、第二段は非正規社員しかないから。これはよくなっていないですね。人がイキイキできませんよね。

 

勝山:ひどいですよ。派遣社員とかひどすぎますよ。

 

杉本:はいはい。

 

勝山:いつでもクビが切れるじゃないですか。

 

杉本:うん。完全にそうなりましたね、今回の法改正でね。

 

勝山:そんな所で一生懸命働けないですよ。働きたい人でも。

 

杉本:そうですね。

 

勝山:かつては怠け者だけがこもってた。いまは私たちみたいな王者とか名人クラスだけがこもれた、あの時代じゃないんです(笑)。

 

 

 

高齢化の行き着く先は、何ものでもない

 

 

 

杉本:そうか。もう本当、ロートルになっていくわけでね。僕はだからいま考えているのはその、無私の、あまり外には出たがらないだけの友人と老後をね。ひきこもりの友として人間関係を継続できるかどうかが勝負かなあという風に思っとるわけですよ、うん。10年後も付き合えるか。彼は結構継続的に人と付き合えるタイプなんで、65になっても(笑)。

 

勝山:(笑)

 

杉本:友情を継続できるかどうかの勝負だなあと。そうなるともはやひきこもりの話にならないものね。

 

勝山:ならないです。

 

杉本:「何ものでもない」というか。もう言葉が。該当する言葉がない(笑)。

 

勝山:ないですねえ。でも、それも「ひきこもり」と呼ぶようになるんでしょうね。

 

杉本:無理やり。

 

勝山:ひきこもりの高齢化という言葉は昔なかったじゃないですか? 若者の問題だったから。「社会的ひきこもり」の定義は若者ですからね。

 

杉本:ああそうか。35歳以上を無視してたもんなあ。

 

勝山:若者の問題ということになっていましたから。だから変わっていくと思いますよ。

 

杉本:もはや変わっていると思いますけど(笑)。

 

勝山:昔は一度社会に出た人がひきこもるということは想定してないんですね。斎藤環の定義では想定していない。でもいま一度社会に出て働いていた人がまたひきこもるということが普通に起こっているわけだから。

 

杉本:復職できないんだよね。

 

勝山:だからあの定義にあてはまらない人が沢山いる。それくらい変わってきているんですよね。

 

杉本:すると僕なんかも「やっぱりこうなっただろう」みたいな。自分のことを棚にあげておいて(笑)。という風にもいえますわねえ。

 

 

 

次のページへ→

 

  3