フリースクール職員の待遇は悪すぎる
工藤 1割は必ずそういう子が出てくることを前提にして、むしろ法律を変える、という考えになっています。今回も特に法案の中でフリースクール関係がいろいろ揉めましたけど、見ていると最初に出してきた法案はイギリスの法案そのものなんですよ。文科省が出して、結局義務教育だから何らか国のタッチが必要になるんですけど、そのタッチの仕方が国によって違うんですよ。で、最初に出してきた法案の中身はイギリスのもの、そのまんまですね。引き写したような感じ。ところがアメリカ、フランスはまた違っていて、いろんなやり方がある。
―― はい。
工藤 フリースクールに関係する人たちは、もう修復不可能なぐらい内部の対立が激しかったものですから、両方から夜間中学側に対して「こちら側を応援してくれ」という申し出があるわけです。そうなったら夜間中学側の対応として、どっちかがいいということは出来ないです。夜間中学側でも何年もかけて話し合いをして一応すったもんだをやりながらひとつの統一がとれた。
ところがフリースクール側はもう完全に2つに分かれていますから、夜間中学校側として意見を表明できないジレンマがありました。元々、夜間中学とフリースクールは別個に運動が進んでましたからね。途中からたまたま、*馳浩(はせ ひろし)さんが議員連盟の役員やっていたので、おそらく一緒に結び付けたんだと思うんですけど。だから最初結びついたときびっくりしたんです。
―― う~む。私もそこは別個のほうがいいと思った部分なんですけれども。
工藤 そうですね。ただ、僕の立場はそうだなあ。やっぱり法的に何らかの仕組みを考えておかないといけないと思う。義務教育の中にフリースクールやホームスクールを位置づける。いずれにしても位置づけの仕方はどれかの道を選択しなきゃいけないと思いますね。僕が一番これはマズいと思ったのは、札幌市内や北海道の中でフリースクールの職員の方たちの給料があまりに低いということですね。この待遇は改善していかないと。。
―― 民間でやっているフリースクールの職員の人たちですね?
工藤 そう。*自由が丘学園などもそうですね。だって子どもたちを少ない手取りで見ているわけで、そういうことが平気でやられている現状なんですよ。これは何としても改善しないとダメですよね。彼らは重要な役割を必死に担っているわけですから。だからその道筋を何とか作らなくてはいけない。それはどういう考え方で、どういうような法律の条文であれば良いのかということになりますけれど、今後は3年後見直し規定(来年12月が3年後の見直しの時期)に向けて、それまでにフリースクール側としてどのような意見の一致を見るのかわかりませんけど。
―― 何か難しそうですよね、現状だと。
工藤 そう。ちょっとね。
―― いまでも立法化されても「反対だ」という考えは不登校側の支援の人たちはいるでしょうし、また論理は論理で筋が通っている部分もありますしね。でも話を聞いていてちょっと改めて思ったんですけど。物を考えている大人にとってその通りだと思う批判で、でも当事者の子どもを主体として考えるとどうなのか。
昔から不登校とかフリースクールを立ち上げた人たちもそうなんでしょうけど、非常に教育の勉強もし、物も考え、あるべき世の中に対する矛盾を考えて、義務教育での軍隊と教育の一体化した明治の教育世界みたいなものに対するアンチテーゼとしてずっと考えてきたのでしょうけれど。そういう大人の側の理屈はあるんだけれど、子どもには分からない(苦笑)。子どもにとってその難しい議論は。
工藤 うん。
―― もちろん大人は子どものためを思って考えて言ってるけど、当の子供はみんなと同じように学びたいけど学べないとか。昔であれば分かりやすいですよね?学校に行きたいけれど事情があって行けないとか。つまり最初の議論であった戦災直後の問題や、学べなかった人たちの持つ苦労。でもいまは本当に生きていくための生活の苦労に直結する問題ではなくなってきていて、独学でけっこうやれることはやれそうだと。そう考えると一斉に同じところに行って同じ勉強をするということに対して「それはちょっと古いんじゃないか」みたいな考え方も含めて子どもたちの人権的にどうなんだ?と。子どもは学校に行けないけど、どこかで勉強はしたい。その手段はやっぱり大人に助けてもらうしかない。そうなったときに選択肢を大人たちのほうでフリースクールがある、適応指導教室がある、自主夜間中学がある。いろいろある。先ほどどこでもいいとおっしゃったように、本人が学びやすい環境であれば本来何だっていいはずですよね?でも、大人同士が不登校の子どもの行き先のありようをめぐって対立していると(苦笑)。そういうことも、話を聞きつつちょっと思い返すところですね。
税金の二重払い問題と学習権保障
工藤 今回の教育機会確保法は本当に喉から手が出るほど欲しかったもので、昭和29年に第1回全国夜間中学研究大会のときに、これは法整備しなければならないと謳ってから62年後なんですよね。62年経ってるんですよ。いろんなことをやってもダメで、ダメで。ようやくここまでこれたというのがあって、だからフリースクールも下手をしたら同様に60年ぐらいかかるかもしれない。いまのまま行ったら。ですから何らかの解決策を見出さないと。何らかの仕組みを法律の形で見直し、フリースクール関係職員の待遇改善をはかる。それから義務教育のいわゆる税金の二重払い的な問題。フリースクールに行けばまた別にお金がかかるわけですから。税金は引かれ、それはそれで使われるが、加えてフリースクールに行ったらまた別にお金がかかる。いずれにしても無駄というかな。そういうものがある中で、その現状をどうするのか?といったときに、僕がこちらでここ2,3年いろんな人と話したときにですね。教育機会確保法を絶対反対というお母さんと話をするとちょっと議論にならない。さっき言ったように、それを少しずつ変えていく努力をいろんな仕組みの中で頑張っていくスタイルをとるのか、あるいは全否定して一切合切がダメだ。じゃ現実にどうするかといえば、「現状のままだ」という路線を歩むのか。そこははっきり決めないといけない。
―― なるほど。
工藤 それはフリースクールでお互いに対立している人同士がやらなきゃいけないですね。
―― そうですね。どうなんでしょうね。やっぱり*ユネスコの学習権。*漂流教室の相馬さんが工藤さんとのオープン・トークで話してくれた。あとで資料を読み返してみて、すごく立派なものだと思ったんですね。その学習権を保障するといったとき夜間中学は当然そうですよね。当然必要なこと。
工藤 ええ。
―― 誰も否定しないし、もともとそういう権利を求めている人たちが主体的に学びに来ているわけでしょうから。むしろ逆に、周囲とか大人たちの期待を背負ってつらい思いで学校に来なくちゃいけない子どもたちの学習権をどうするか?ということのほうがまあ、正直いまの主流ですよね。子ども全体からいくと。
工藤 ええ。まず学習権が誰にもあるというのはこれははっきりしているわけですね。国際人権規約で日本政府も批准してますから。これは誰も否定できないものとしてあるわけです。ただ、いまの学校制度が先ほど言ったように外国でいくと少なくとも約1割の子は適応できないはずなので、その場合には学校に行かなくてもいいという権利も保障されなくてはいけない。で、そのうえでじゃあその子が学びたいと思ったときにどういう学びの場を、いわゆる公的な学習の場以外に用意できるのか。これがひとつの勝負どころだと思います。しかもそれはある程度公的に認められていて、経済的に自立して上手く行くものでなければいけない。だからすごくハードル高いのは分かるけれども、それをやらなかったら世界的にみて1割の子どもたちがいまの学校に適応しない。そこで別の道を歩むということを考えると、何らかの仕組みはやはり絶対作らなくちゃいけない。去年の3月に道教委が夜間中学のアンケート調査したんです。2回目なんですけどね。我々と協力して作ったんですが、中3の時、30日以上の長期欠席の人が卒業後に3年間進学も就職もしていない子どもが毎年200人生まれている。で、その人たちに今後、まず居場所、学ぶ場所、働く場所というのを考えたときにその学ぶ場所として夜間中学が出来たら通いますか?という問いかけをアンケートにしたらこれがなかなかうまく本人に届かないんですよ。
―― なるほど。
義務教育期間終了後の行き先がない
工藤 それはすでに卒業しちゃっている関係だからあえてまたタッチしない。それでね。札幌市の場合、*若者支援総合センター。あそこは15歳から39歳までが対象です。
―― サポートステーションも加えてあるところですね。
工藤 あそこへけっこう相談に来ているんです。
―― ああ~。そうなんですか。
工藤 センター長の松田さんのところへ行ったときにあとからあとから相談に来てるんですね。で、その人たちにようやく20名程度にアンケート実施できて、そのうちの約半分の若い人たちが公立の夜間中学が出来たら通ってみたいと回答している。だけど毎年毎年、200名生まれてるんですから。
―― それは全体の何パーセントくらい?
工藤 パーセントまではわからない。
―― じゃあ、アンケートに答えてくれた人たちは夜間学校に通いたいと?
工藤 でも、アンケートに答えてくれる人の数自体が少ないわけです。ただ、卒業後3年間のあいだに通学や就職していないという人は毎年200人ずつ生まれて積み重なってきているということだけは分かっている。
―― なるほど、はい。
工藤 じゃあその後ですね。ずっと学校にも行かない、就職もしないで引きこもっている。そういう人たちが積み重なっていくので、有効な対策がないとすると、その人たちが時にはフリースクールに行ったり、時には若者支援総合センターに行っている。そこでやっぱり支援総合センターの松田さんが言ってたのは、あそこは本来就労支援をするところなんだけど、どうしても学びの場が必要な人がいる。
―― そうでしょうね。
工藤 そう考えたときに夜間中学が一つの選択の対象になるかもしれない。その意味でこれからどうなるかわかりませんけれど、要するに多様なやり方の学びの場をいろんな形で作っていけないか。それも公的に作る場合と自主的に作る場合といろんな形があっていいんじゃないか。ただそれなりにやっぱり身分保障が絶対に必要だなと。だって相馬さんを見ていても「お金大丈夫か、お前?」って言いたくなる(苦笑)。
―― ははは(笑)。精力的なかたですよね。けっこうあちらこちら動き回っているみたいで。
工藤 (笑)ええ。
―― 個人的にはつらそうな顔を見たことはないですけれども(笑)。
工藤 ははは。いや本当にフリースクール関係のいろんな集会でも、飲んだ時でしか真面目な話を相馬さんとしたことないけれども(笑)。彼なんかを見てるとすごくいいもの持ってるなあと。
―― ああ~、本当に。いや、漂流教室さんも、私そんなに付き合いないですからよく知らないですけれども(笑)。もう2000年代の初めくらいからずっと活動されてるわけでしょう。もう20年近くやっているでしょうから、ある種の腹のくくり方はしてるんでしょうけどね。
工藤 完全に生き方として選んでしまったということですね。
―― まあ相馬さん自身が個人として、もちろん仕事として自分たちはどうするか?というのは常に念頭にあるんでしょうけど、何か個人としての楽しみ、本を読むこととか、何かを考えることを自分の中で見つけてはそれを吟味していることが生きる喜びにもなっている感じじゃないかという気もするので(笑)。「生き方上手」な感じがして、自分はとても羨ましいですけどね。
工藤 何か本当にいい奴だなあという感じ。
―― レスペクトしあってるんですね。
工藤 うん。最初のころから考えると約30年夜間中学やってくると、まあともかく「どう乗り越えたらいいだろう?」ということばかり出てくるんだよね。
―― 課題がどうしても見えてしまうとやっぱり離れられなくなりますかね?いま工藤さんがいらっしゃる世界から。
工藤 いや。というよりも離れるという考えが全くないわけですから。
遠友塾読書会
―― ああ~。いつくらいからそのように?1990年から始められたときって、工藤さんは何をされていたんですか?
工藤 正確には1987年から「札幌遠友塾読書会」という読書会があったんです。
―― 遠友塾読書会。
工藤 読書会というものがあって、そこから動き出して。
―― それはどういう読書会だったんですか?
工藤 もう亡くなられたけど、牧野金太郎さんという先生だった人がいましてね。その方が昔札幌に遠友夜学校という学校があったと教えてくれて、そこに通った人がね。要するに学校というのはとってもいいところだと。
―― うん。
工藤 実に良かったということを言っていまして、そういう学校がいま必要なんじゃないかということで。まずは読書会から始めてみようということで。そうしたら遠友夜学校の卒業生がね。何人か来られたんですよ。その人たちの話を聞いたとき、本当に学校ってその人たちにとってはいいところだったと。
―― もしかしたらそれは戦前にあったころの?
工藤 明治27年に設立され、50年後の昭和19年に閉校になりました。
―― その頃に通っていた人が来られたんですか?
工藤 そう。遠友塾読書会という形で新聞に載りましたけど、遠友夜学校だと思う人が多かったんですよね。
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*馳浩―馳 浩(はせ ひろし)政治家、元プロレスラー。自由民主党所属の衆議院議員(7期)、自由民主党教育再生実行本部長。
*札幌自由が丘学園―NPO法人フリースクール札幌自由が丘学園。HP:http://www.sapporo-jg.com/free-school/
*ユネスコの学習権―ユネスコ学習権宣言(1985年3月29日採択)。
『学習権とは、読み書きの権利であり、 問い続け、深く考える権利であり、想像し、創造する権利であり、自分自身の世界を読みとり、歴史をつづる権利であり、あらゆる教育の手だてを得る権利であり、個人的・集団的力量を発揮させる権利である。』全文はリンクのHPにて。http://ohtus.org/kyouken/yunesuko.htm
*漂流教室―NPO法人訪問と居場所 漂流教室。HP: http://hyouryu.com/ BLOG:http://d.hatena.ne.jp/hyouryu/
*札幌市若者支援総合センターーひきこもり等の対人関係や進路・仕事のことなど、さまざまな悩みを抱える若者(義務教育終了後~39歳)、家族の相談に応じ、就労準備や進路サポートなどのグループプログラムも行っている。さっぽろ若者サポートステーションの相談窓口も併設する。また、有料貸室では個人および団体の活動場所として、ダンス・演劇・会議やセミナーなど様々な利用ができる。HP:http://www.sapporo-youth.jp/center/