「弱さ」の連帯

 

杉本:僕もかつてと違って、いまは居直ってしまっていて、究極を言ってしまえば、学校行こうが行くまいが、って感じはあるんですけどね(笑)、石井さんが証明してますからね。

 

石井:いや、いや、いや。

 

杉本:いや本当に、行かなくたってちゃんとやれるよっていう。勝山さんと伊藤さんが取材している「ひきスタ」のインタビュー読みましたけど、「なんか大変ですよ、お互いもう生存すること頑張んなきゃ」みたいなこと仰ってましたけど。清掃のバイトとか、本格的に日勤みたいな形でやっていたことがあるんですよね。

 

石井:はい。

 

杉本:ねぇ?大丈夫ですよ。

 

石井:ははは(笑)。

 

杉本:(笑)これだけの東京の大都会だったらどっかのビルで絶対仕事につけます。

 

石井:そうですね。

 

杉本:清掃会社でもうバリバリやれますよ、石井さんだったら。

 

石井:いやいや(苦笑)。どうなんでしょうね。

 

杉本:コミュニケーション能力高いし、不登校新聞じゃスキルにならないなんて、そんなことはない(笑)。

 

石井:(笑)そうですか。

 

杉本:有名人ですから。もはや。

 

石井:それであればよかったです。

 

杉本:僕のバイト先の上司も、あの~、なんていうんですかね、お気楽な感じだけど、やっぱり高校中退してるんですよね。

 

石井:う~んなるほど、なるほど。

 

杉本:それからこう、フラフラしてて。まあ僕とほぼ同世代っていうか3つくらい下なんですけど。バブル世代で、友達のところに居候して。まあ気楽に勤められた時代があって。今は少し大変ですけど…。

 

石井:う~ん。

 

杉本:早朝から夕方までビルにいますけどね。仕事としてはそれほどきついかどうかわからないけど。まあ、1日いるから面倒くさいなと思っているんだろうけど、でもなんだろうね?こう、嗅覚的に合うっていうのがありますよ。

 

石井:うん、うん。

 

杉本:「弱さの連帯」みたいな。

 

石井:確かにそれはありますねえ~(笑)。

 

杉本:お互いどっか口にはしないけど、スネに傷もつ仲間だな、みたいな。

 

石井:それもあります。

 

杉本:それもね、ちょっと怖い系の人だと困っちゃうんだけど和み系の人なんでね。

 

石井:(笑)。

 

杉本:そこは結構気楽でやりやすいなあっていうのがあって、なんかスクエアな人だったらちょっと僕も大変だっていうか。真面目に働いてウン十年みたいな感じだとちょっとこちらが異色過ぎて「この人わかんない」、ってなってるかもしれませんが。

 

石井:(笑)確かに。不登校新聞を取材する普通のメディアの方なんかには「弱さの連帯」を感じるときがありますね。不登校新聞を取材したい人だからかもしれませんが。

 

杉本:ああ~。来られる人はね。

 

石井:本当になんかこう、お互いの話や気持ちが、すごく通じ合えるんですよ。取材に来た人が僕よりもずっとひどいいじめを受けていたりした例も少なくありません。「よく不登校にならなかったですね」と言うと「いやぁ、辛かったです」みたいな感じで。だからこういう仕事を始めてすごく感じているのは、学校に行ってた時の違和感を、みんなも持っていたんだな、と。学校がおかしいという話が一番伝わらなかったのは実は学校の中だけでしたね。取材を通して、この間、浴びるようにいろんな人から学校への違和感を伝えられ、不登校した私に対して「あなたはおかしくなかったよね」と言われてるような気持ちになってました。そって私にとっては支えになってきたんじゃないかな、と。

 

 

 

揺らいでいい

 

杉本:そうですか。今までどれぐらいの延べ取材してきた感じしますか?もう相当数でしょうけどね。

 

石井:たぶん70何号からこれに関わって451号(2017年2月1日時点)で、1号につきひとりは話しています。

 

杉本:インタビューがないという紙面はないんですか?

 

石井:そうです、たぶんインタビューのない号はないです。

 

杉本:凄いな、それは(笑)

 

石井:あの~、対面形式の取材だけじゃなくて。電話でお話したりとか、まあ色々な形がありますけれど。取材をしなかった号はないです。

 

杉本:そうですか。

 

石井:なので、数百人。

 

杉本:もう人の話を聞くってことは慣れ慣れですね。

 

石井:(笑)いやぁ~それはないです、すみません。

 

杉本:かみ合わな過ぎてえらいことになったとかってことは?

 

石井:ありますね。それはあります。

 

杉本:あるでしょうね。やっぱり人によりけりでしょうから。

 

石井:つい最近亡くなりましたけど永六輔さんとかの取材は、かみ合わないというわけではないですが、すごかったです。

 

杉本:あ~永六輔さん。

 

石井:本当に凄かったですね。あの~、喋りの回転力の速さが。

 

杉本:ああ、ああ。

 

石井:話題の転換の仕方に全く追いつけなくてですね。

 

杉本:石井さんでも?

 

石井:全然ダメ。取材時間は30分でしたが、おそらく呼吸ができないまま聞いてました(笑)。ずっと集中して聞いてないと今なんの話になっているのかわからなくなっちゃうので。しかも、永さんは「笑い声」をコントロールするんですよね。

 

杉本:ええっ!

 

石井:普通の人は笑うと同時に大きく息を吐くため、笑ってから大きく息を吸います。つまり笑ったあとにかならず「間」があるんです。ところが、永さんは、笑っている途中で止めて、息を吸わずにちがう話題へと移っていく(笑)。これ単純な話に聞こえますが、現場で聞いてるうちは、何が起きているのかなんてわからないですよ。とにかく、呼吸が整わない。「なぜ聞いてるだけなのに息が切れるんだ?」って思ってましたから。取材中は永さんは笑っても、こちらは笑えなかった(笑)。

 

杉本:へえ~、笑ってる余裕がない。

 

石井:そう、笑っている余裕がないし、理論も豊富でしたし。

 

杉本:取材時間が短かったと?

 

石井:取材時間は30分です。

 

杉本:じゃあ30分でもう伝えられるものは全部伝える感じが永さんにもあって...

 

石井:ダーって話されましたね。

 

杉本:そうですか。へえ~!

 

石井:あと、印象深いのは、やっぱり吉本さん。それから最近では玄侑宗久さんという福島で住職されている方ですけど、芥川賞一回とられたのかな…。

 

杉本:ええ、そうですね。

 

石井:実は震災前に申し込んでいて、震災が起きて。で、取材が一年ぐらい延び延びになって。玄侑さんから「いまちょっと大変なんです」と。それでまあ、取材オファーしてから1年半ぐらいかかって取材に行ったんです。取材で玄侑さんは私たちに「揺らいでいい」と言われたんです。ぶれない人がいいとか、信念を持っている人がいいとされているけど、その、しなれない、しなやかに揺らげない物はあの震災で全部折れたと。

 

杉本:ああ、そういう意味。

 

石井:揺らいでいいっていう自覚をもつことを仏教では「風流」と呼びます、と…。

 

杉本:う~ん、それが風流。

 

石井:風に流されると書いて風流。この取材で私自身なにか、方向性を得た気がしたんですね。今はぶれないとか、芯があるとか、そういうものが好かれてますけども。あるいはひきこもりの人や不登校の人にもそういう言い方する人もいますよね? ストップした方が、ひきこもった方が芯ができるんだ、とか。

 

杉本:うん、うん。

 

石井:不登校やひきこもれるほうが個性的でいい、とかって言われますよね。

 

杉本:そうですね。

 

石井:ブレない人もいていいんですが、私は、「揺らいでいい」という文化が、これから発信すべきことではないかなと思ったんです。それはさきほどの「弱さの連帯」ではないですけど、意外と多くの人がそれを待っているんじゃないかなと思うんです。

 

杉本:揺らぎは大事ですよね。そこが面白いんじゃないかなあと思うんですけど。なかなか同時に自己防衛のために硬くなって、しなやかさを失う。自分を省みてそう思います。

 

 

 

学校は変わらない

 

杉本:話が飛んじゃうみたいですけど石井さん、いま30おいくつ?

 

石井:34です。

 

杉本:34歳ですか。まだ35歳までいってないんですね、まだ若いですね。まあ、こういうスキルも持ち、で、大人の考えもたくさん聞き、不登校新聞を再建するに当たって助成金もらいつつ、それこそプロフェッショナルな、データをね。掌握したいとかっていう。インタビューとかで読ませていただくと、そういう経営ノウハウみたいなことも学んでこられたようですね。さっき「揺らぎがいい」って仰いましたけど、自分たちの伝えたいものの核は何だ?っていうことを突き詰めたら、「不登校とひきこもりの全面肯定である」っていうところに行きついたという。そういう色々ソーシャルな学びや技術も生き残るためにやってきたと思うんですよね。そういう風に非常に突き詰めたと。で、不登校についてもひきこもりについてもかなり尽くされて考えて、媒体として自分の納得だけに限らず、読み手のことも考えて。そういうことのようなんですが、いわば月一回の子ども若者編集部は不登校の当事者の子たちとかが集まるわけでしょう?そういう子たちとのコミュニケーション。通じ合えるのか。難しいなあと思う時があるのか。時々によって世代も変わり人も変わっていくと思うのですけど。今の少年少女たち、青年もいるかもしれないですけど、どうですか?

 

石井:まあ、結構、わかんない部分は非常に多いなって正直感じるところありますね。特にカルチャーですよね。そもそもLINEがわからないし、流行ってる音楽も全然、わからない。ただ、なにも変わらないのは学校の話ですね。そこは徹底して一緒です。

 

杉本:ああ、そうですか。

 

石井:学校は本当に変わらないですよ。私が学校で感じた感覚を、昨日、中学1年生の女の子がまったく同じ話をするんですね。学校も変わってきているとは思いますが、違和感や反応は、まったくかわらない。ですから、どれだけ年齢が離れていても、学校に関することは「こんなにも話が通じるのか」と思いつつ話せます。

 

杉本:凄い。

 

石井:びっくりされますよ、「そう、そうなんですよ!」みたいな場面がたくさんあるので。そこの部分は本当に全くかわらない。

 

杉本:学校に関する神話がね。

 

石井:で、その子たちが急にアニメや音楽の話に移るともう全くわからないですね(笑)。

 

 

 

子ども若者編集部は「活動の場」

 

杉本:なるほどね。そうすると石井さんは基本的にはもう編集長としてその場に参加して。

 

石井:う~ん。そうなりますね、きっとね。

 

杉本:東京シューレの子だけじゃないみたいですね。

 

石井:そうですね、え~と、今現在、レギューラーで関わっているシューレの子は一人ですね。20人中1人くらいです。

 

杉本:少ないですよね。

 

石井:東京シューレとは関係なく、新聞のつながりで集まって来ている人が圧倒的に多いですね。

 

杉本:どの形で不登校新聞につながるんですかね。

 

石井:それが全然わかんないです(笑)。

 

杉本:え?どういうことでしょう。

 

石井:口コミであったりはするのかも。新聞にはいつも告知してるので。    

 

杉本:ああ募集している。

 

石井:はい募集してます。それを見て来たっていう人や、ネットで不登校新聞のことを知ったという人で、こういう場があれば行ってみたいという人。

 

杉本:僕はね、ハートネットTVの映像、ユーチューブにもあがってて昨日見たんですけど。まあ石井さんの役割とか、やっぱりなんていうのかな、支援者という言い方もあまり好きじゃないんだけど。あの~、エンパワーメントする人って言い方でいいのかもしれないんだけど。そうは言いつつも「仕事と両立していくんだよ」、みたいなことを伝えている。

 

石井:そうなんですよね。

 

杉本:その部分もやっているし、とはいえ何ていうんだろう?やっぱり居場所機能としてこの場を、不登校新聞というものを利用している子もいるのかな?って思ったんですけどね。

 

石井:うん。そうですね。僕は再三、この子ども若者編集部は「居場所ではない」と言っているんですね。

 

杉本:なるほど。そうなんですか。

 

石井:「活動の場」なんですね。もっと言うと本来はお金を払って彼らの記事や経験を不登校新聞社は買わなくてはいけません。当事者の気持ちが一番わかる人たちに知恵を出してもらっているんですから。しかし、お金がないのでボランティアでお願いしています。「子ども若者編集部」は「仕事の場」というか、「活動体」というのが私の感覚です。もちろん、そこを居場所に感じている人が居ることを別に排除しようと思っているわけじゃありません。居場所を求めてやってくる人もいます。

 

杉本:じゃあ、編集の中にいる人間だっていう意識でみなさん来てらっしゃる?

 

石井:一応まあ、そう言ってますが、居場所として評価してくれている編集部の人のほうが多いです(笑)。「排除しない」と言いつつ、「活動してほしい」という私が排除されないよう、がんばっているのが実質でしょうか(笑)。

 

杉本:ええ、ええ。

 

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