若者との交流
杉本:インタビューも僕は年とっている人が好きだから年配の人ばかりに話し聞いてきたんだけど。そろそろ若い人からも何か聞いていかないとまずいかな、と思いはじめてもいるんですよね。
勝山:私もつきあいがあるのは甥っ子と、30代以降の人で、真ん中がないんですね。20代くらいの人と交流がない。ひきこもりの人って25歳くらいまでは完全社会復帰というか、レールに戻ることを考えるから、「考える会」みたいなところには来ないですよ。
杉本:ああ。
勝山:ここに来たらおしまいと私も思っていたように、考える会で「ひきこもり名人」というやつと話をするようではもう自分はおしまいだと思っているから、踏んばるんですよね。
杉本:(笑)なるほどね。
勝山:20代くらいの人と話をするということはできない。
杉本:ジョブカフェ行ったり、サポステ行ったり。
勝山:そういうことなんですよ。真っ当に生きたいと。
杉本:本当にね。
勝山:勝山みたいになったらおしまいだ、と(笑)。勝山から「王者」と言われるようになったらもっとおしまいだ、という人たちがいるわけですよ(笑)。
杉本:ひゃはは(笑)。そうだね。
勝山:だから全然交流がない。ただ甥っ子がいるんで小学生とは交流がある。
杉本:僕のね。下の甥っ子がスーパー甥っ子なんですよ。次男坊がね。それがクロスカントリーのオリンビック強化選手にギリギリなりそうだったという子で。
勝山:へえ~。すごいですね。
杉本:ウチの家の血が本当に入ってるのか?と思うんだけど。この前ひとりで北海道に来るから泊まらしてくれって。もう悩んじゃってね。僕の存在自体がありえない存在だし。
勝山:そうですねえ。
杉本:で、僕は甥っ子にはねえ。勝山さんみたいに一度としてお年玉あげたことないんですよ。
勝山:あら(笑)。
杉本:そのことで非難浴びたことが一度もない。
勝山:すごいですねえ。
杉本:(笑)すごい。まあ、それくらい交流がないといえば交流がない。まあ離れているのもあるんだけど。だけど来たら意外と話が噛み合ってね。驚きましたよ。なかなか今風のイイ男で。話もなかなか分かる。まあ、好きになりましたね。僕、ファンになっちゃいましたよ。甥っ子の。
勝山:ほお。
杉本:意外だったので嬉しかったですね。何か若い人で期待出来る子がいると嬉しい。まあ結局のところ、こっち界隈のひとなんだけど(笑)。やっぱり歳ですね。歳が離れてると歳が離れた甥っ子とか、それこそおじさん気分というか。
勝山:うん。わかりますね。
杉本:何か声援を送りたくなるというか。新しい時代の先を開いて欲しいとか。その代わりウチらおじさんもあの、見捨てないでね、みたいな。ふふふ(笑)。
勝山:見捨てますよ(笑)。真っ先に見捨てます。そんな甘いことを思ってちゃダメですよ(笑)。
杉本:褒めてあげた分、見捨てないで俺のこと記憶しといてくれ、みたいなさ。
勝山:ダメダメ。そんな重たいこと言っちゃダメですよ(笑)。
杉本:(笑)そうなんですか。
勝山:私たちは腹かっさばいて自害するから(笑)お前たちは自由にしてくれ、と言わないと(笑)。
杉本:うん。重石になっちゃいけないね。
勝山:うん。
杉本:(笑)そう考えると寂しいもんですね。
勝山:そんなことないですよ。
杉本:勝手に愛情感じて、勝手に去られちゃって(笑)。
勝山:いいじゃないですか。
杉本:さすがにねえ。俺の歳までこじれて欲しくないなあ、とはやっぱり思うもんなあ。
勝山:まあ、どっちでもいいですからね。こじれたらこっちの業界で歓迎するわけですから。だからこじれたからって、こっちは泣いたり騒いだりしない。もう、磐石です。業界を上げて迎え入れるわけですからね。
親が光っていればそれでいい
杉本:いや、それは向こうに行って感じた。これはもう、腹くくってるなあと。だから何だろう? ひきこもりの当事者もそうだし、親もそうなんだけど、別の楽しみや能力? そういうものがまず語られなくてね。まず枠組みの話だけ。で、結局答えが出ない話を。僕、答えが出ない話が好きなんだけどもさ。でもちょっとネガティヴな方向に悪循環して下降していくみたいなことを続けていくより個々の持っている人の才能がね。親も含めて見向きもされないままで終っていくのはちょっと残念だなあと。どうせ集まってるなら何かやった方がおもしろいのかもしれないなあと。やったほうがよろしいのではないか、というべきか。
勝山:まあねえ。自分自身がね。楽しんでくれるというかね。親自身が淀んでいると、本人プラス子どもの悩みになる。子どもは淀んでいるかもしれないけど、親本人が瀬戸内寂聴先生みたいに光ってくれたらな。
杉本:そうですね。
勝山:それならまだ救いがあるんだけど、「子どもが働いて、学校行っても、お前は淀んだままだろう」という人がいるじゃないですか?
杉本:そうそうそう。その影響を受けて子どもも淀む、みたいなね。
勝山:それが子どもにとっては一番辛いじゃないですか。
杉本:そうだなあ。
勝山:自分のせいで家族が暗くなったとか、足を引っ張っているとか。
杉本:そこだ。そこだよ。
勝山:親自身が、自分だけでも楽しんでくれたらねえ。それなら苦しんでいるのはひきこもっている自分だけになるから。
杉本:俺たちは勝手に楽しませてもらうから、もう勝手にひきこもりを楽しんでくれ、みたいなのが一番いいよね。
勝山:いいですね。自分だけが沈めばいいわけだから。
杉本:うん。そうそう。
勝山:親はね、光ってればいいわけ。
杉本:うん。いや本当、そうだなあ、それは。
勝山:親を巻きぞえにして沈もうなんて気はないから。
杉本:そうだよねえ。別に親、巻き込むつもりはさらさらないんだけど。
勝山:巻き込んだところで心が晴れるわけじゃないですからね。あんなのに巻き込んだところでさ。それで気が晴れる人はどうかしてるよ(笑)。
杉本:だけど初期は僕も巻き込んだ可能性が高いな(笑)。
勝山:。最初期はね。初期はほら、「パニック期」じゃないですか。
杉本:うん、そうですね。
勝山:急に学校に行かなくなったり、急に働かなくなったりというそのあとに起こる混乱パニック期はそれはもう防ぎようがないというかね。それはしょうがないけど。そのあともずっと巻きこんでいるようでは、ちょっとダメですね。
当事者たちの新しい動き
杉本:なるほどね。実際問題、その巻き込んだあとに落ち着いてきたらやはり当事者の自助会の役割は大きいと思うんだけど。それに関しては元当事者が運営している例会、読書会。これは本当に斬新だと思いますよ。希望ですよね。あと、東京では川初慎吾さんたちがやってるフューチャーセッションとか。ひきこもり大学とか。
勝山:100人くらい来るらしい。
杉本:そう聞いてます。
勝山:私は1回も行ってないんだけど。
杉本:うん、当事者がね。中心で。こちらでも出張で来てくれたんですよ。
勝山:藤沢で川初さんに来てもらってやったことがあるんだけど、上手く行かなかった。その時にフューチャーセッションの人たちがアドバイスしてくれて、「ひきこもり2.0」では足りない。ひきこもり、3.0、4.0、5.0くらいの気持ちでやってください、と言われて。要するにもう、新しいことやるんだ、という気持ちでやってくださいと。今までの、ひきこもりの集まりにとらわれずにね。やっぱりフューチャーセッション100人集めるだけあって、言うこと違うなあと思ってやったんだけど、集まった人たちは全員お父さん、お母さんで。
杉本:あは(笑)。
勝山:もう、昔ながらの、クラシックな話題ばかりなんですよ(笑)。「とうやったら外に出れるのか」「どうやったら会話してくれるのか」「子どもが何を考えてるのか」とか。
杉本:おやおや(笑)それは。典型的な家族会じゃないですか。
勝山:古典ですよ(笑)。文学で言うなら。夏目漱石クラス、森鴎外クラスの質問しか来ない。
杉本:(笑)。
勝山:1.0も1.0だ! ということで(笑)。
杉本:ははは(笑)。
勝山:親ばっか来て、当事者が来なかった。そこがね。せっかくアドバイスしてくれて、出張版フューチャーセッションということでやったんだけど、いつも通りの親の会やっちゃったというね。苦い経験がありますよ。
杉本:それは僕も(笑)。沢山聞きましたよ。まあ、まあ僕のとこ親がほとんど来なかったから。少数の所で答えのない話をしていましたよねえ。そうなんだよな。なかなか難しいというのは実体でしょうねえ。
勝山:だからフューチャーセッションはすごいなあと思ってね。でも1回集まっちゃえば、たくさん集まってるということで、人が来やすくなるんじゃないかな。
杉本:ああ、なるほどね。
勝山:だって10人とかしか集まってないところにひとり新顔で参入するというのはプレッシャーじゃないですか? でも100人いるところに1人入るっていうのは結構気が楽というのはわかるんですね。
杉本:でも、話し合いの場作っちゃうから緊張しませんかね?
勝山:でも、自分以外にも話せない人がいっぱいいるわけじゃないですか。それだけ沢山いるということは。常に10人くらい新規で来ているわけだから。常連ばかりじゃないっていうことが保証されているのがいいんじゃないのかなあって、自分はそう思います。10年続いてる、参加者が毎回10人程度の老舗の会に初めて参加するよりは、2ヶ月に1回、100人くらい人が集まるところのほうが初めて参加するならそっちの方がいいかな、と思いますね。
杉本:僕はどっちかというと、コアな感じのイメージが好きで。何か10年来黙々と読書会続けて、その結果、いやその結果だけじゃないだろうけど、林さんなり、勝山さんなり、丸山さんみたいな人が自分の世界を築いてやってる、みたいな。両方ね。やってるみたいなところに何かこう、ひきこもり「らしさ」というのか、そこにこそ何か「源流がある」というか。大海にはやはり源流があるなあ、みたいな。そういうのが好きなんですけど。個人的には。
勝山:私もいまはそう思います。
杉本:そこらへんはやはり川初さんはイベンターの元々そういう仕事やっていたことがあるから、人を集めるのはスキルがあってうまいのかな。
勝山:そうそう。
杉本:ただそれが継続して長くひきこもりのアイデンティティ持ってやれるのかどうか,というのも感じないではないんですね。
勝山:でも結構長く続いてるんじゃないですか。もう、5年? くらい続いているのかなあ。
杉本:それはすごいですね。東京のパワーかな。いけふくろうも多いんでしょ?
勝山:25人くらいですね。
杉本:ああ、そりゃすごいや。
勝山:飲み会で25人は多いですよ。飲み会ですからね。
杉本:そうするともう、2つか3つのグループに分かれて?
勝山:3つグループに分かれますね。
杉本:でも勝山さんは結構やってますね。全体に気をつかっているというか。この前の例会を見ていても。ほら、本体終ってから当事者の人たちが食事を持ってくるじゃないですか。
勝山:そうですね。
杉本:そういう二次会からくる当事者のメンバーの中にも自然に入っているから。意外とほら、印象的にはやっぱり勝山さんって突出しているイメージがどうしてもあって。その意味ではひきこもりの中でもある意味確立していて、自分の考えを持ってて、見ようによっては孤高に見えるみたいな印象もあるんだけど。意外とそうでもないというか。
勝山:違いますね。軍団のひとり。
杉本:それが心地いいんだろうなあって思った。だからその流れは別にね。当事者の人にとってみると「安心ひきこもりライフ」の著者の勝山さんだから、という形でつながってるわけじゃないんだろうなあって。
勝山:あれは特別ですね。普段はそうじゃない。
杉本:うんうん。普通にね。
勝山:脇役なんですよ。たまにスポット当たって人前に出るというのはむしろイレギュラーなんでね。
杉本:しかし2011年から2013年にかけてはイレギュラーという言葉、通用しないぐらい(笑)。すごかったんじゃないかな(笑)。
勝山:まあちょっとね。でも1ヶ月に1回か、2ヶ月に1回くらいは人前に行ったけど。まあその程度。
杉本:そ~お? 多かった気がするけどな。
勝山:それくらいだと思いますよ。でも1ヶ月に1回でも12ヶ月で12回か。
杉本:そうですよ(笑)。やっぱり相当。
勝山:相当ですね。
杉本:基本的に向いてるというか、倒れないというかね。
勝山:いやちょっと向いてないと思います。だからたいてい伊藤書佳さんに司会やってもらってたんですよ。
杉本:でも、掛け合いうまいし。さぼったとか、キャンセルしたのとか、ないでしょ?
勝山:ないですねえ。
杉本:すごいわ、それ。
勝山:すっぱかして平気で帰れるほどのパワーがないんです。常識人なんですよ(笑)。
杉本:ははは(笑)。
勝山:そこがね(笑)。弱点なんです。
杉本:風邪をひこうが。何をしようが行く、という?
勝山:うん。何かしら一生懸命行くんですよ。
杉本:俺、常識人じゃないのかな(笑)。
勝山:規格外ですよ。
杉本:それ、褒められてないなあ、絶対に(笑)。ははは。
勝山:真面目というかね。ちょっととらわれているところがあるのでね。そういうのはキッチリやるんです。
杉本:ああ~。それは非常に良く分かるんだけど。
勝山:ねえ? すっぽかすのもパワーがいりますよ。
杉本:うん。まあ。
勝山:すっぽかしたあとどうなるんだ? と考えただけでももうね。肝が縮むじゃないですか。
杉本:だから意外とね。書かれていることは「すっぽかし、OK」みたいな感じだけど、それはお客さんに対してということでね(笑)。さすがに講演者はすっぱかさない。
勝山:真面目ですね。
杉本:うん、だから何だろう? 全然非日常的な存在じゃない、ごめんなさい、そういう言い方は全く適切じゃないんですけど、普通の人の生き方の延長というか、もうコラムニストなり何なりと言うことでいいんじゃないですか? 文筆家というか。
勝山:でもそれだともっと書かないとダメでしょう? もうこんなんじゃ足りないでしょ。
杉本:ああ、仕事として?
勝山:仕事として全然足りないですよ。
杉本:うん~。そうかあ。いいと思うんだけどなあ。
勝山:量産しないとダメですね。
杉本:やっぱり質を大事に考えますか?
勝山:紙がもったいない、と考えますね。