初めてのハローワークで衝撃を受ける

 

杉本:でまあ、6年くらい後になって親孝行させたいと思って初めて・・・。

 

 

 

近藤:そうですね。思って。まあだから動機としては自立しようというよりは、幼稚園の子どもが「ああ、お母さんの誕生日だ」って道ばたのたんぽぽを摘みにいくような。

 

 

 

杉本:(笑)

 

 

 

近藤:(笑)それがあるんですよね。摘みたい、という。

 

 

 

杉本:(笑)そうか。

 

 

 

近藤:それでこう、ハローワークに初めて行って。でまあ、世の中そういう若者溢れてる。テレビとかでもやってるし、何かそんなもんだろうと思って行ったんですけど、そうしたら「これは大変なことだ!」みたいなことを(笑)

 

 

 

杉本:言われて?

 

 

 

近藤:言われて。「ああ~!」と思って(笑)。で、こう、何というんでしょうかね?まさかこの「え?俺が働けないんだ?」というのは考えていたことがなかったんですね。大学生のときは確かに身分を持つ、自立する恐怖って言うのはすごくあったんですけど、6年のうちに風化してたんですね(笑)。

 

 

 

杉本:ああ~!なるほどね。

 

 

 

近藤:風化してて、で、今度、「自分が生きていけないぞ」っていうことを言われて。急に「え!そうなの?」って。

 

 

 

杉本:現実的なことを突きつけられた?

 

 

 

近藤:そう。びっくりして。でその、本当に行きと帰りでもう全然見える世界が違っちゃってるわけですよ。

 

 

 

杉本:ああ~。何分くらい話したんですか、そのハローワークの職員と?

 

 

 

近藤:いや、結構短かった。

 

 

 

杉本:短かった。それでも相当衝撃を受けて?

 

 

 

近藤:何かもう、その時すぐというか。「ん?」と。整理番号みたいな、なにかよく分からないんですけど。受け取って。それを履歴書と一緒に提出して。

 

 

 

杉本:大学後の履歴は真っ白なんですね。

 

 

 

近藤:そうそう。真っ白なんですよね。で、何というんですかね?コミカルに言うと、「ワークにハローしに来ましたよ」って(笑)。「”お仕事にこんにちは”しに来たぞ」っていうことを伝えると、「ああそうですか」って。利用してくださいね、っていう話になって、で、「ふんふん」とやってけばいいんだろうと思ってたんですけど。向こうは何か「大変なのが来たぞ!」みたいな。履歴書を見たときに。

 

 

 

杉本:ああ~。

 

 

 

近藤:そういうリアクションだったんですよ。ちょっと手に負えないし、次の方もあるんで、「はい、これで切り上げ」みたいな感じで(苦笑)。「アレッ?」って思ったんですが、とりあってくれた感じがしなかった。

 

 

 

杉本:ああ~。なるほど、なるほど。

 

 

 

近藤:で、とりあってくれた感じがしないというので、「おや?」と思ったんですけど、あとはまあ、「いいご身分ですね」という発言があった。

 

 

 

杉本:嫌味だねえ。

 

 

 

近藤:ふふふ(笑)。「いいご身分ですね」って、「お?」と思って。でもそれ、よく考えたら確かにみんな失業したあと必死の気持ちで来てるから、それでも難しいという現状があって、そこにあの、ぽわぽわ~っとしたのが、”ひゅ”っと来たと。で、それで何だ?と思ったんでしょうね。それがすごく何というのかなあ?(苦笑)自分で、「申し訳ない」というか、「そうなんだ」というか。

 

 

 

杉本:申し訳ない…。

 

 

 

近藤:申し訳ないというか、あとは、「あ、俺、現実認識してなかった」と。まあとにかくいろいろワア~って思ったんですね。

 

 

 

杉本:まあ、あまりいい人に出会わなかったですね。ハローワークで。

 

 

 

近藤:そうですね。まあその時はそうでしたね。

 

 

 

杉本:何か事務的な感じの人でした?

 

 

 

近藤:う~ん。

 

 

 

杉本:一般的にはコンピュータで検索してこういう仕事を探してます、みたいな。印刷した求人票を持っていって、これでこういう方向の仕事探してるんですけど、みたいな感じだと思うんですけど。

 

 

 

近藤:そうそう。多分そう。

 

 

 

杉本:そういう入り方はしてないんでしょ?

 

 

 

近藤:そうなんですよ。

 

 

 

杉本:まったくまっさらな感じで行ったんですね。

 

 

 

近藤:そうなんです。利用法を教えてください、みたいな気持ちだったんです。どの人に聞いてみたらいいか分からないから。これを持って順番を待って、順番が来たら聞いてみようと。ほかの求人者はたぶんパソコンを利用して。

 

 

 

杉本:大概はね。それが多いですからね。

 

 

 

近藤:そうですね。「ああ、なるほどな」と。だから多分向こうの人は苛立ったのかなと思ったんですけど。でもその時は「苛立ったかな?」とか思う余裕はなくて、ものすごくショックを受けたんですね。「あれ?でもそれって?」「え?働けないのかな?」みたいなことも考えて。

 

 

 

杉本:自分は?

 

 

 

近藤:はい。

 

 

 

杉本:うん、うん。

 

 

 

近藤:それ、どうしたらいいんだろう?と思って。働けないのはどうしたらいいの?って言ったら、まあハローワークに行くことになるわけじゃないですか。

 

 

 

杉本:(笑)。

 

 

 

近藤:ははは(笑)。

 

 

 

杉本:結局はね(笑)。

 

 

 

 

 

「ひきこもり」ワードを初めて知る

 

近藤:そう。だからええ~?だったらどうしたらいいの?って。「何てこった!」と思ったんですね。で、調べて「ひきこもり」のワードを初めてその時に知ったんです。

 

 

 

杉本:それ、調べたっていうのは、インターネットでどういう検索の仕方をしたんですか?

 

 

 

近藤:どういう検索をしたかなあ?

 

 

 

杉本:何だろう?「無職」とか?

 

 

 

近藤:まあたぶん「空白期間」とか、「働けない」とか。

 

 

 

杉本:ああ~。なるほどね。そういうワードなら出ますよね、「ひきこもり」はね。

 

 

 

近藤:で、何かその中で、「違うんです」と。そういう若者は働かないんじゃなくて、「働きたいけど、働けない」というワードが書いてあって、「わあー!みんなそうなんだあ」と思って(笑)。みんなもう、辛い気持ちでずっと悩んで生活してるんだ、それが本道なんだと思って。僕はそういう気持ちも持たずにいて、「これはひどい」と(笑)。

 

 

 

杉本:(笑)。

 

 

 

近藤:(笑)なにか全部に申し訳なくなってしまって。

 

 

 

杉本:「申し訳ない」というのはねえ。なるほどねえ。

 

 

 

近藤:「罰されなきゃ」みたいな(笑)。気持ちになってきてしまったんですね。あと、混乱してごはんも食べれなくなるんですよ。何かこう、白いお米を食べるような価値がある人間じゃない、みたいな気持ちになって。

 

 

 

杉本:はぁ~。唐突に?

 

 

 

近藤:はい。で、食べようとすると「ぽろぽろ」涙が出るような。

 

 

 

杉本:はあ~。

 

 

 

近藤:周りは混乱(笑)。「アレッ?」って。

 

 

 

杉本:そりゃそうでしょうね。昨日まで元気にやってたのに。

 

 

 

近藤:周りが混乱して。

 

 

 

杉本:「病気なの?」みたいな?

 

 

 

近藤:そうですね。ただ、たぶんその瞬間は結局医療には行かなかったんですけど。正気の状態じゃないと思いましたね。

 

 

 

杉本:なるほど。

 

 

 

近藤:正常ではなかった。

 

 

 

杉本:近藤さんにとって初めて訪れた何か「おかしい」という感じ?いままで知らないような体験がやってきた感じかな?

 

 

 

近藤:そう~、正気じゃないというのはやっぱり思いました。まず非常に動揺して、動揺しすぎて「死にかねない」と思っているんですね。死にかねないレベルで動揺してる。で、寝方がよく分からなくなって。

 

 

 

杉本:寝方が?

 

 

 

近藤:自分がどうやって寝てたかわからなくなって。で、三日、四日ずっと一睡もできないんですよ。

 

 

 

杉本:ああ、そうですか。はあ~。

 

 

 

近藤:はい。で、「おかしいぞ」って。おかしいと思ってるんだけれども、そしてそれは自分の感情なんだけれども、「おかしいな」という認識はあるんだけれども、それに対して無力なんですよね。わかっていてもずっとその状態で。で、何かこう、「やばい」感じ。電車とかもホームとかに行くと何か飛び込みかねない感じなんです。衝動的に飛び込みかねない感じがあって、非常に身の危険も感じたんです。そのときの自分は。でもとにかく正気ではないので、で、絶対自分では解決できないと思った。そしてそれを持ち込めるところがない。だからワラをもすがる思いで、アクセスできるところがあるのか?と。で、「ひきこもり」のワードが唯一関連した窓口。このワードに頼るしかないということで、ひきこもり自助会の「STEP」と、あと横浜若者サポートステーション。

 

 

 

杉本:ああ、サポートステーション。

 

 

 

近藤:ただ、サポステはネットから検索したんですけど、そこに行く前にもう一回ハローワークに行ってるんですよね。

 

 

 

杉本:ああ、はいはい。

 

 

 

近藤:今度は深刻な気持ちこう、「どよ~ん」とした顔で行って、その時の相談員の人がすごい親切で。

 

 

 

杉本:ああ~。良かったですね。それは急速に悪化した状態からどれくらい経ってからなんですか?

 

 

 

近藤:いや、結構。すぐ行ったのかな?3,4日くらいで。

 

 

 

杉本:あ、そうか。

 

 

 

近藤:はい。もう1回行かなきゃ、と思って。

 

 

 

杉本:じゃあ、最悪の状態は4日くらいで?

 

 

 

近藤:いや、最悪な状態は2週間くらいあったんですよね。

 

 

 

杉本:まあでも短い方ですね。

 

 

 

近藤:そうですね。でも短かったですけど。

 

 

 

杉本:でも、かなり深刻な状況?

 

 

 

近藤:あれ長期間で、自分の内面世界が強いて言えばそういう状態で、何とか長期間生き延びている方とかがいるわけじゃないですか?僕はたぶんそこまでタフじゃないなというのはすごく感じます。

 

 

 

杉本:ああ~。はい。それはすごいわかります。

 

 

 

近藤:それで正気を保っていられるほどタフでもないし、何というんだろうな?それをやれてる人はもう尊敬の念のひとつというか(笑)。「すげえな」と思いますね。

 

 

 

杉本:う~んまあ。そこはどう考えたらいいか。微妙ですけどね。でも僕もどっちかというと人に頼っちゃうタイプなんでね。自分が調子悪くなると。病院とかも平気だし。そういう意味ではあまり自分を信用してないというところはありますね。

 

 で、具合悪いまま、とりあえずハロワにもう1回行って、サポステを知ったと。

 

 

 

近藤:そうですね。ハロワがあるビルにポステも入っていたんです。そこではもっと長い時間使って面談が出来るということと、あと、ハローワークの相談員のかたが僕はとりあえず、ずっとここにいるからほかに困ったことがあれば必ず来なさいと。

 

 

 

杉本:ああ、本当に今度の人は優しい対応ですね。へえ~。近藤さん幾つのとき?そのときって。

 

 

 

近藤:28です。

 

 

 

杉本:ああ、じゃあサポステ、ジャストだね。

 

 

 

近藤:それでサポステ行って。それは当日利用できないので、初利用の手続きをして帰るんですけれど。その帰るときにも2階の電車のホームで非常に危険を感じたんです。

 

 

 

杉本:ああ、危ないなと。

 

 

 

近藤:危ないなと。「これはやばい」と思いましたね。

 

 

 

杉本:あの~、自分のコントロールが利かない?

 

 

 

近藤:利かない。そうです。

 

 

 

杉本:何かの力に引っ張られてる感じですか?それは最早。

 

 

 

近藤:そう、そうですね。乗ったときに涙が出るんですよ。何かこう、「飛びこみ損ねた」みたいな。

 

 

 

杉本:ああー。

 

 

 

近藤:でも別に「飛びこもう」と思ってるわけではないんですけど(苦笑)。

 

 

 

杉本:それはもう一種のパニック状態?

 

 

 

近藤:パニックですね。「正気じゃねえぞ」と思ったし。涙が出てくるのも意味分からないし。

 

 

 

杉本:うんうんうん。

 

 

 

近藤:何かそうですね。「外、出るのはやばい」と。

 

 

 

杉本:そうですか。う~ん。

 

 

 

近藤:で、まあその外出るのはやばいんだけれども、どっかでほったらかしにもしていられないんですね、精神的に。

 

 

 

杉本:ねえ~?いつまで続くかわらかないものね。

 

 

 

近藤:わからなくて。とにかくワラをもすがりたいというか。

 

 

 

杉本:うんうんうん。

 

 

 

近藤:身体がもう、“バラバラバラ”という感じですからね。

 

 

 

杉本:うんうん。そうですね。

 

 

 

 

 

ひきこもりの自助会で救われる

 

近藤:で、その時「STEP」もひきこもりのワードで見つけて。すぐ行けそうなものはこれか?と思ったんですね。

 

 

 

杉本:じゃ、ハロワに行って、サポステ紹介された頃にパソコンで「STEP」も?

 

 

 

近藤:それはどうだったかなあ?詳しくは覚えてないですね。

 

 

 

杉本:まあほぼ同時期に?

 

 

 

近藤:同時期ですね。事前に連絡して。

 

 

 

杉本:なるほど。僕らの札幌の自助会はもう完全フリーというか、当日いきなり来てもOKな状況はあるんですよ。ただ一応代表者に連絡する人は多いのかな?全く無連絡で来るという人はあまりいないのかもしれないけれども、ただSTEPさんは一応完全申し込み制になってるんですよね?自分の状況なども伝えて。

 

 

 

近藤:はい。場所の公開もしていないんですよね。どこでやってるかというのも公開されてなくて。だから事前に申し込まないと行けないんですよね。

 

 

 

杉本:ああ~。そうなんですねえ。

 

 

 

近藤:結構以前に興味本位で来てる人に荒らされた経験があったらしくて。そういう形に変えたらしいんです。

 

 

 

杉本:なるほど。それじゃあ結構思いは十分書いて送った感じ?

 

 

 

近藤:そうですね。6年くらい空白期間があって、どうしたらいいかよく分からなくって、ひとりで解決できないので参加したいです、そういう感じで。

 

 

 

杉本:そうかそうか。そこでは深刻な状況までは書かずに。

 

 

 

近藤:そうですね。でもけっこうまあ、「いま混乱してるんですけど」みたいなことも書いたかなあ。でまあ、場所の返事があって。「青少年センターでやってます」と。あっ、青少年センター?と(苦笑)。

 

 

 

杉本:(笑)何?何ですか?それは(笑)

 

 

 

近藤:それは「青少年センターかあ」と思ったんですよね。

 

 

 

杉本:青少年でしょう?28歳といったらまだ。

 

 

 

近藤:いやあ、どうだろう?

 

 

 

杉本:少年ではないけど、青年ではあるね。

 

 

 

近藤:「一番年長だと思うんですけども」と書いたんですよね。

 

 

 

杉本:いやあ~。ああ、でもなるほどね。自助会知らないからね。

 

 

 

近藤:あの、青少年センターをみたら、ほかのやっている行いはみんな文化祭の。学校関連のイベント。

 

 

 

杉本:ああ!そうなんですか。

 

 

 

近藤:そうなんですよ。

 

 

 

杉本:なるほど、なるほど。

 

 

 

近藤:演劇部の公演とか。

 

 

 

杉本:ふ~ん。それは知ってたんだ?

 

 

 

近藤:いや、それはあとで調べたんです。どういう所かなと思って。あ、じゃあすごい歳、離れているけれども、だけどほかに持ち込める所ないから、って(笑)。「よろしくお願いします!」って。

 

 

 

杉本:ワラをも掴む思いですからねえ…。

 

 

 

近藤:はい。思いで。で、行ってみたら最年少。

 

 

 

杉本:たはは(笑)。ははははは。

 

 

 

近藤:(笑)。

 

 

 

杉本:想像を超えて。僕ぐらいの年の者がいた、という(笑)。

 

 

 

近藤:そうですね。もっと上のほう。

 

 

 

杉本:ははははは(笑)。びっくりしたでしょう?何だ?年寄りばっかりいるぞ、って。

 

 

 

近藤:で、自分が一番年下で。その次が6~7年目上くらい。

 

 

 

杉本:それはあれだなあ。こちらの自助会と変わらんなあ。

 

 

 

近藤:で、何か10何年も働いてないみたいな。20年とか。

 

 

 

杉本:ベテランがね。

 

 

 

近藤:ベテランがいて。でもそこで、「ハッ」としたんですよね。すごく僕が正気でなかったんだけど、結構これ、早く片づけないと生きて行けない。死んじゃう、死んじゃうと思っていたんですけど。そうか、俺の生活環境は変わらないじゃん、と思って。「そうか」と思って。何か断崖絶壁にいる気分だったんですけど、結構普通にこうだ、という。別にこれはすぐ解決しなくても今いる地面がなくなるわけじゃないんだと気づいて、すごくハッとして。

 

 

 

杉本:緊急性が高いわけじゃないんだ、って気づいたわけですね。

 

 

 

近藤:はい。自分は現実を知って錯乱したと思ってたんですけど、それは違うんだと。自分は現実を忘れて錯乱したんだと。

 

 

 

杉本:う~ん。現実には大変な人がもっとたくさんいるということですか?

 

 

 

近藤:いや~、何というんですかね。この危機のほうが現実じゃないんだな、って。

 

 

 

杉本:ああ~。

 

 

 

近藤:「危機」だと思ったことが錯乱の原因であって、現実は俺の主観と違う。まずそれがすごくわかったのと、あと働いてなくて、働いてない自分は「悪い人間」だと思っていたんですけど。

 

 

 

杉本:唐突にね。

 

 

 

近藤:そう。唐突にも、超強烈に「悪い人間だ」って思ってたんですけど。で、早くお医者さんにもかからなきゃと思ってたんですけど。でもお医者さんにかかって何か話を聴いてもらっても、ちゃんと働いている人間が僕に何か言ってくれても、それ、聞いてもらえるかな?って思ったんですね。

 

 

 

杉本:な~るほど。そう同じ立場には立ってくれないと思ったんですね?

 

 

 

近藤:というかすごくシンプルに聞いてくれても、多分いたわり?そう、いたわり(笑)。

 

 

 

杉本:慰労される、みたいな?で、それで終る、とか。

 

 

 

近藤:それには、「ああ~」と思うんだけれども。

 

 

 

杉本:「自分の状態はわからないだろうなあ」みたいな?

 

 

 

近藤:そうです。

 

 

 

杉本:かわいそうだから助けてあげなきゃ、みたいに思われちゃうみたいな。

 

 

 

近藤;そう思うんじゃないかな、って。

 

 

 

杉本:であれば、同じ働けない人たちの集まりにいるほうが?

 

 

 

近藤:どうなんですかね?その、一発でその姿見て、「別に誰も死んでいない」というのと、あとは、すごいことに僕は一発でこう、錯乱状態抜けたんですね。

 

 

 

杉本:あっ。そうですか。

 

 

 

近藤:で、参加してみてこの「生きていけない」ということの錯覚による錯乱状態が抜けて、それに対して彼らはある意味働いていない独特の状態の人としてず~とそこでその状態で生きていて、その姿を見せたままでしかね。

 

そのときの僕の特殊な状況で、自分が実感することというのは、その時参加していた人たちのその姿でしか多分できないことだっただろうな、って。で、それに対して「利益」というか、「ああ。いいことをしましたね」という評価を受けるわけでもないし(笑)。

 

僕から治療の謝礼がでるわけでもないけれども、その自分を助けてくれる作用というのは自然的にもたらされるんだなってすごく思ったんです。で、僕は就労していなくて、「悪い、悪い」って思っていたけれどもそればかりでもないというか。で、僕的には価値があっても、それが彼らに正しいこととして収入が入るわけではなくて、正しくても収入が入らない形がある。で、何というんだろう?「ああ~!」と慌てふためいている自分の動きに対してちょっとツッコミが入った、じゃないですけど。自分でふと唐突に思ったことがあるんですね。それはほかの人がその状態であることが何かすごく尊いなあと思ったんです。でもそれは僕が「うぅ~」と思っているときには、「お前もおんなじ。俺も適用して良いぞ」とはなかなか思えなくて。何か「俺だけはダメだ」って(笑)。しばらくはなかなか抜けませんでしたね。

 

 

 

杉本:ああ。そういう感じはありましたか?

 

 

 

近藤:はい。

 

 

 

杉本:しばらくの間は?

 

 

 

近藤:ありましたね。

 

 

 

杉本:う~ん。

 

 

 

近藤:「ダメだ」と思ってたので。でもけっこう時間をかけて。これは自分にとっての何というんだろう?まず同じように俺も(自分を)一旦非難しないというのも本当にお前がそこに価値があると信じているなら、それも課題だろう、と。

 

 

 

杉本:なるほど、なるほど。

 

 

 

近藤:矛盾なくこう、「お前の信念になるための課題だ」と思って。

 

 

 

杉本:なるほど、へえ~。なるほど。

 

 

 

近藤:で、結構繰り返して、「そうだ」と。

 

 

 

杉本:うん。信念になるための課題か…。

 

 

 

近藤:で、結構じわじわ、少しずつ切り替わっていくんですけど。まあ自分も一旦落ち着いて。で、実は同じようなことは母親にも言われていたんですね。あなた錯乱してどうしてるんだ?と。自分が働けないで生きていけないと言ってた時ですが。母は「お前、タバコ吸ってんじゃないか」と。「私は働かないで死んだ人間は見たことはないが、ガンで死んだ人間なら見たことがあるぞ」と。世の中に「働かない」という死因があったろうか、と。

 

 

 

杉本:へえ~。なるほどねえ。

 

 

 

近藤:そんなものは見たことがない。生きていけないなんて悩んでいるよりも、あんたはまずタバコをやめてからだと。

 

 

 

杉本:(笑)。

 

 

 

近藤:(笑)「あんたまずタバコやめなさいよ」って言われて。で、こう俺は「こいつは何を言ってるんだ!?」(笑)。ははは(笑)。

 

 

 

杉本:いや~、素晴らしいアドバイス。いや~、素晴らしい両親をお持ちですねえ。

 

 

 

近藤:話し合いが通じてない!って。その時は錯乱してて(笑)。

 

 

 

杉本:ああ、錯乱してるから。

 

 

 

近藤:ワ~と思ってたんですけど。

 

 

 

杉本:いや~。それは。すごいいたわりの言葉じゃないですか?

 

 

 

近藤:だから母親も真剣に、「こいつは何を言ってるんだ」と考えていたんでしょうね

 

 

 

杉本:いや~。優しいよね。

 

 

 

近藤:でも結局、29のときに、高校の同級生死んじゃって。

 

 

 

杉本:あらっ!

 

 

 

近藤:ガンだったんですね。

 

 

 

杉本:あら~…。

 

 

 

近藤:新卒のタイミングで就労してたんですけど、その時にはやっぱり「ああ~、母が正しいかった」とすごく思ってですね。本当だ、と思って。でも、俺の友だち、なんか亡くなったあとに、すごくその、亡くなる前というか、入院してから「職場に戻りたい」とずっと願ってたんですね。

 

 

 

杉本:う~ん。なるほどね。

 

 

 

近藤:それがすごくこう、何というんだろう?羨ましかったですね。

 

 

 

杉本:うん、分かる気がします。

 

 

 

近藤:それは何か働いていることが羨ましいというよりはね。

 

 

 

杉本:うん。生きがい?

 

 

 

近藤:そうそう。職場に戻りたい、ということ。

 

 

 

杉本:居場所、行き(生き)場所なんだね。

 

 

 

近藤:そうそう。その人にとって単にそれでよかったんだ、いいとこだったんだ。何よりの。何というのかな。そういう羨ましさですね。

 

 

 

杉本:そうですね。そう思った段階で、まあ短い命で亡くなるのは客観的にはとても哀しいことですけど、その人の主観の中では会社に戻りたいと思う。

 

 

 

近藤:そうですね、元気になって。

 

 

 

杉本:元気になって。そういう目的が。目的意識、生きる目的意識と繋がっていたという意味では幸せだったのかもね。

 

 

 

近藤:そうですね。やっぱり働きながらの繰り返しの私生活が楽しかったということ。

 

 

 

杉本:で、ひきこもりの人たちが働かず生きることをいろいろ考えているのもまた別の意味の楽しさかも(笑)。楽しさ、というのも微妙かもしれないけれども(笑)。まあ楽しさに変えていく技術を習得すれば楽しい。

 

 

 

近藤:そうですね。

 

 

 

杉本:ええ。そうか…。で、近藤さんは後者のほうに自分の軸足をいったん置いたわけですね。

 

 

 

近藤:うん~。

 

 

 

杉本:自助会に行って、一回でだいぶ憑き物が落ちたという話もすごいですね。

 

 

 

近藤:まあ何か、何というんですかね。

 

 

 

杉本:まあ確かにね。かなりショックの受け方も急速なだけに。何かそれが落ちるのも早かったんだね。落差がありますもんね。かたっぽで就労援助の人に働いていないところで「大丈夫なのか」と言われて大ショックを受けて。で、ワラをもすがる思いで自助会に行ったら働かないベテランがたくさんいて、また現実に戻ったという。

 

 

 

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